2018年3月28日

2018年1月から3月 観たものの記録

1月3日(水)/展覧会
「アジェのインスピレーション ひきつがれる精神」展(東京都写真美術館
フランスの写真家アジェと、アジェの影響を受けた写真家たちの展覧会。アジェの《廃品回収業者たちの小屋》、《ショワジー館、バルベット通り8番地》をはじめ、シンプルに切り取られたパリの風景からは不思議な喪失感が漂う。写された建築物から叙情を読み取ろうとしてしまうのは、おれ自身がそんなふうに街を見ていたいと欲望しているからか。アジェのほか、清野賀子という写真家のプリントに惹かれた。中判カメラで鮮明に切り取られた、どこにでもあるような匿名の風景。写真集には手が出なかったが、清野氏の作品が掲載されている横浜美術館の図録『現代の写真Ⅱ 反記憶』を購入。インターネットで最近の活動歴を調べたところ、自死したという記事がひとつだけ出てきた。

1月8日(月)/展覧会
「現代美術に魅せられて 原俊夫による原美術館コレクション展」(原美術館
会場のコンパクトさも相まって、現代アートのオモチャ箱のような印象。会場に入ったらちょうどギャラリートークが始まっていたので、なんとなく輪に加わった。現代美術の基礎知識から原俊夫氏の富豪エピソードまで、学芸員の方がとにかく楽しそうに話していたのがよかった。館内を歩くとウォーホル、ポロックリキテンシュタイン奈良美智杉本博司……と錚々たる作家たちの代表作が並ぶ。入り口には動かなくなったナムジュン・パイクインスタレーションが。本や図録でしか観たことのなかった作品たちとの出会いに興奮を覚えたが、会場を出た後に残ったのは「金持ちってすごいな」という感想だった。

1月27日(土)/演劇
玉田企画『あの日々の話』(BUoY北千住アートセンター)
「大学生の男女がサークルの決起集会でカラオケオールをする」という、ただそれだけの話を舞台上で精密に再現するバカバカしさ。くだらない見栄の張り合いや薄っぺらい自分語りなど、蓋をしていた恥ずかしい記憶をこじ開けられたような感覚に。後輩たちの前で大人ぶった振る舞いを見せる就活中の4年生や「サークルの和を乱すなよ」と新入生男子にアツい説教をかます3年生など、そのリアルなキャラクター造形もさることながら、大学生特有の自意識が蠢く空気感の演出に舌を巻く。振り返ると大学時代の飲み会って本当にろくなもんじゃなかった。仕事でたまに大学生の話を聞く機会があるけど、真面目そうに見える彼らも普段はあんな感じで酒を飲んだり異性と遊んだりしているのだろうか。二度と戻りたくないが、少しうらやましくもある。

1月29日(月)/展覧会
「Forever(and again)永遠に、そしてふたたび」展(IZU PHOTO MUSEUM)
川の水を映したテリ・ワイフェンバックの短いループ映像に心打たれた。とめどなく流れる水は不可逆な時間の映しであり、コンマ1秒ごとにその表情を変える。人間の一生ってそういうものかな、という気分にさせてくれる。「時間」というテーマの壮大さがいい。短く鋭いステイトメントも印象的だった。長島有里枝は『SWISS』から、花の写真の展示。昨年の東京都写真美術館での展覧会もよかったが、この小規模な空間ではコンセプトがよりクリアに見えた。最後に登場する川内倫子の《cui cui》は鮮烈すぎるというか、展覧会全体が急にわかりやすくまとまってしまった気がする。わかりやすさは必ずしもプラスにならないと痛感した。せっかくの壮大なテーマだからこそ、よくわからないまま会場の外に放り出された方がよかった。

2月17日(土)/映画
行定勲監督『リバーズ・エッジ』(2018年)
岡崎京子の名作を行定勲が満を持して映像化!」という触れ込みもあって当然満席だろうと思い、土曜の昼前にTOHOシネマ渋谷へ。しかし、客席はガラガラ。作品自体は原作を忠実に再現していた。インタビューパートも、現代の高校生の感覚とのギャップを埋めるという意味で機能している。映像ももちろんよかった。エンディングで挿入されるオザケンの楽曲も出色の出来だった。しかしどうしても「誰に向けられた作品なのか?」と疑問が残ってしまう。オザケンは盟友・岡崎京子への個人的な思いを歌うが、そのカタルシスを享受できるのは彼らと同じ時代を過ごした中高年世代だけじゃないか。客席を見渡しても、たしかに若者はほとんどいなかったけど。現代版でのリメイクが見たい。「死体」という異物をめぐって行き場のない10代の苦悩を描いた原作の説得力を、今の高校生にも届けてほしい。

2月18日(日)/映画
大九明子監督『勝手にふるえてろ』(2017年)
日曜昼、渋谷アップリンクにて。主人公・ヨシカを演じる松岡茉優の一人芝居と言っていい内容で、その魅力的な演技に圧倒された。激しく泣き、大胆に笑い、そして全身を震わせて歌う。おそるべき女優だ。マンションのベランダでイチ(北村匠海)と絶滅した生物について語り合う場面に、この映画のエモーションが集約されている。過去のイチとの思い出にすがって生きるヨシカと、彼女の名前すら覚えていないイチ。交わることのない二人が「アンモナイト」というワードの上で一瞬だけ心を通わせる。その直後にヨシカはイチの発言によって致命傷を負ってしまうのだけど。名前を覚えられていなくたって、イチとこの先結ばれることがなくたって、そのベランダの思い出があればいいじゃないか。坂元裕二のドラマ『カルテット』でも、松田龍平と一晩を明かした菊池亜希子がベランダでサッポロ一番を啜り、「これが君と私のクライマックスでいいんじゃない?」と語りかけるシーンがあった。プライベートな空間と外側の世界とのちょうど真ん中で、ベランダはほどよくロマンチックだ。

2月18(日)/展覧会
「第10回恵比寿映像祭 インヴィジブル」展(東京都写真美術館
ここ数年は毎回観に行っているけど、今年は特に面白かったような気がする。特に強く印象に残ったのが青柳菜摘の映像インスタレーション「孵化日記」。ドキュメンタリーの手法をとってはいるが、蝶の幼体を映す青柳本人もまた第三者のカメラによって記録されている。イメージと音声による「日記」。そこに本人によるモノローグやピアノの発表会の映像が重なり、奇妙な物語が生み出されている。スリリングな空間演出で、「ナラティブとは」を改めて問い直していたように思う。あとはジェームス・リチャーズ、横溝静、コティングリー妖精写真などがよかった。清野賀子のプリントもあった。あまりに素っ気ない風景だからこそ、もっとよく見たいという欲求を駆り立てるのか。

3月11日(日)/展覧会
みうらじゅんフェス!マイブームの全貌展」(川崎市市民ミュージアム
圧倒的な展示量。幼少期の落書きから高校時代のノート、自作の楽曲やイラストまで、みうらじゅんのデビュー以前/以後の歩みがとにかく詳細に「記録」として残されている。展示の後半は市街地の看板から般若心経を一文字ずつ拾っていく「アウトドア般若心経」、みうらじゅんの代表作(?)「ゆるキャラ」をはじめ、知的好奇心とエンターテイメント性を両立させた素晴らしい展示構成だった。個人的に興味深かったのが、10枚組セットで売られている観光写真の中に紛れ込んだどうでもいい観光ハガキ=「カスハガ」。取り立てて見るべきところのない写真は魅力的だ。ご婦人の集団が砂風呂につかって首だけ出している写真なんて、欲しいに決まってる。まともに考えることに疲れたので、しばらくはどうでもいいものだけ見ていたい。

3月18日(日)/展覧会
「マイク・ケリー展 DAY IS DONE」(ワタリウム美術館
「ぼくたちは支配的な文化の影響を受けながら制作するほかないから、それを使って遊ぶのさ」とステイトメントにもある通り、ポップカルチャーへの愛憎入り混じるラディカルな展示だった。作者の学生時代のモノクロ写真を映像やカラー写真によって「再演」することで、学校にとどまらずアメリカ社会に渦巻く「呪い」を分解・再構築していく。映像作品《課外活動 再構成》は、アメリカの学校文化のアクを煮詰めたようなおぞましさ。体型にコンプレックスのある少女が「デブ」とからかわれたり、田舎育ちの少女が見世物のようにカントリーを歌ったりと、ひどい悪夢を見たような体験だった。無意識の身体を蝕んでいく「支配的な文化」に対してどう抗っていくのか。現在の日本も同じ問題を抱えている。作者のシニカルなメッセージの中にヒントがある気がした。

3月25日(日)/演劇
ロロ『いつ高シリーズvol.5 いつだって窓際でぼくたち』(早稲田どらま館小劇場)
ロロは初めてでかなり期待して行ったのだけど、予想に反してあまり肌に合わなかった。高校生活のある一日、街では花火大会が行われていて、夜の教室で4人の男子が花火を見るために残っている。その舞台設定だけで強烈なエモーションがあるはずなのだけど、キャラクターがデフォルメされすぎているせいか、セリフにあまりリアリティを感じなかった。人気者はいかにも人気者らしいことを言うし、オタクはいかにもオタクらしい振る舞いをする。60分という短い上演時間もあり、悪く言えば予定調和で終わってしまった印象。しかし、高校生を描いた作品ならではのみずみずしさや独特のカタルシスはあった。冒頭から先日発表されたばかりの小沢健二アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)」を引用したり、「ゴッドタン」「水曜日のダウンタウン」などの固有名詞を挟んだりと、同時代のカルチャーに対する強烈な目配せもあった。次も観に行きたい。

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 年明けから3月までの印象に残った展覧会・映画・演劇をざっと振り返りました。阿佐ヶ谷ロマンティクスのイベントやclub asiaでのmaco maretsのライブなど音楽系のイベントにも足を運びましたが、音楽については語る言葉をまったく持ち合わせていないので割愛。素敵な体験だった、ということだけ記しておきたい。どちらも知人がやっているので思い入れもあり、また遊びに行くつもりです。最近はNetflixに加入したので、暇さえあれば「あいのり」を観ています。
 断片的なメモしか残していないので、これっぽっちの文章量でもまとめるのに苦労した。もう少し長い文章を書かなくてはいけない。大学院を離れてもうすぐ2年が経つ。修士論文以来まともな文章は書けていないが、それでもなんとか書き続けたい。仕事としての文章と自分の書くべき文章が、少しずつでも交わっていけばいいと思う。
 5月6日(日)の文フリに出ます。前回の「BACK GROUND CINEMA」の売れ行きが好調(?)のようでうれしい。今回も引き続き、大学院時代からの盟友・林亜華音さんとタッグを組んで、まったく方向性の違うZINEを作っています。完成したらまた告知します。

もうすぐ春ですね。
https://youtu.be/SOHKvK3agDg

みなさまが素敵な新年度を迎えられますよう。
笹塚より愛をこめて。