2017年12月31日

2017年、ままならない生活に追われる日々のなかで心に残った作品たちです。基本的に今年の新作から。年末年始にお暇な方はぜひ手にとって触れてみてください。

■マンガ 2017年の5作品
1.新田章『恋のツキ』
2.鳥飼茜『地獄のガールフレンド』
3.ねむようこ『ボンクラボンボンハウス』
4.山本崇一朗『からかい上手の(元)高木さん』
5.石山さやか『サザンウィンドウ・サザンドア』

2017年に新刊が出た作品から。(1)社会規範としての“正しさ”を守ることと個人の幸福は必ずしも一致しない。ふうくんと二人で積み上げてきた時間と冷やかな視線を振り切って16歳男子のもとへ真っ直ぐ走るワコの姿に心を打たれた。例えそれが破滅へ続く道だとしても。(2)「後とか先とか考えることの方が、今誰かを好きになって近付くよりよっぽど意味ないんじゃないの」“元カレ気持ち悪い問題”に関して、ナオさんの発言より。エモーショナルで刹那的な生き方を肯定したい。同世代の女性の結婚観・恋愛観に強い関心がある。(3)「自分で住むとこと食べるとこ用意して、自力で生きられたらゴロゴロしていい?」住む家をつくる、というのは今後の選択肢としてかなりいい気がする。おれはねむようこ作品が大好きなんだ。来年はDIYをしよう。(4)結婚して母になった高木さんの愛おしさよ。あまりの幸福感に胸が苦しい。第一話でいきなり泣けてしまった。(5)おれはめちゃくちゃ単純なので団地に花火が上がるだけで無条件に感動してしまう。

既刊では山本直樹『世界最後の日々』、『明日また電話するね』、安達哲さくらの唄』などエロ要素の強い漫画を好んで読みました。安達哲、『バカ姉弟』とのギャップがすごい。リストには入っていませんが近藤聡乃『A子さんの恋人』の最新刊も見事に刺さりました。

■映画 2017年の5本
1.『ラ・ラ・ランド』(デイミアン・チャゼル監督)
2.『Kings of Summer』(ジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督)
3.『牯嶺街少年殺人事件(デジタルリマスター版)』(エドワード・ヤン監督)
4.『20センチュリー・ウーマン』(マイク・ミルズ監督)
5.『パーティで女の子に話しかけるには』(ジョン・キャメロン・ミッチェル監督)

(1)おれは根本的に超ミーハーなので、劇場とDVD合わせて5回ほど観ました。プラネタリウムでキスして宇宙に飛んでいったり、鮮やかなドレスを着て得意げに踊ったり、ああいう映像に滅法弱い。いろいろ破綻はあるけど、愛と希望があればオールオッケーじゃないの。(2)男子高校生3人が森の中に家を建てる青春ストーリー。いかにもなサークルクラッシャーぶりを発揮したエリン・モリアーティが100点満点の演技。劇伴音楽も最高。(3)初めて劇場で観たので一応。VHSの粗い映像では視認できなかった部分も多かったので新鮮だった。政治的背景からくる閉塞感と10代男子たちの生きづらさに見事に肉薄している。(4)「セックスさせてくれない女の人の隣で寝ちゃだめよ」。時代の変遷とともにカルチャーも更新されていく。セクシーなお姉さん役のエル・ファニングに120点。(5)今年ナンバーワンの衝撃作。あの衣装はキューブリックのオマージュなのだろうか。主人公の身体を舐めるセクシーなエル・ファニングに120点。

邦画で印象深いのは『三度目の殺人』(是枝裕和監督)、『バンコクナイツ』(富田克也監督)。あと、これを書くまで完全に忘れていましたが『帝一の國』(永井聡監督)はめちゃくちゃ面白かった。エンターテインメントとして圧巻の出来栄えだと思う。旧作ではテレンス・マリック監督の『トゥ・ザ・ワンダー』、『ツリー・オブ・ライフ』、レオス・カラックス監督の『ホーリー・モーターズ』、『ポン・ヌフの恋人』、賈樟柯監督の 『山河ノスタルジア』、『罪の手触り』などの素晴らしい作品と出会いました。

■文芸 2017年の5作品
1.上原隆『友がみな我よりえらく見える日は』
2.千野帽子『人はなぜ物語を求めるのか』
3.小林エリコ『この地獄を生きるのだ』
4.ボリス・グロイス『アート・パワー』
5.坂元裕二『初恋と不倫』

(1)いきなり既刊ですが、今年は上原隆さんの文章との出会いが大きかった。どこにでもいる、市井に暮らす人々のエピソードを拾い上げ、ほとんど主語と動詞のみで淡々と書く。4冊発行されているエッセイ集はどれも素晴らしいのだが、本作に収録されている「別れた男の家事」はやりきれない生活の苦しみを描いた傑作です。原稿を書く、という仕事を見つめ直すきっかけになった。(2)岡真理『記憶/物語』と併せて読んだ。「人は「世界」や「私」をストーリー形式(できごとの報告)という形で認識している」らしい。おれは物語に執着して生きている。(3)セーフティネットに守られて生きることの辛さと後ろめたさを考える。仕事をしてそれなりに金を稼いで安全圏に立ったつもりでも、少し躓けばそこに「地獄」はある。(4)春先に買ったものの、結局1年かけて読むことになってしまった。繰り返し語られる「芸術の終焉後」について、今年観たいくつかの展覧会と照らし合わせて改めて考え直す。(5)「玉埜くんと繋いだ手を感じているのです。支えのようにして。お守りのようにして。君がいてもいなくても、日常の中でいつも君が好きでした」。社会的な正しさと遠く離れて、恋はパラレルな場所で生き続ける。

川上未映子責任編集『早稲田文学 女性特集号』がよかった。そのほか植本一子『家族最後の日』、高石宏輔『声をかける』、最果タヒ『十代に共感する奴はみんな嘘つき』、こだま『夫のちんぽが入らない』などが今年の新刊では印象深い作品でした。あとは展覧会に合わせて長島有里枝『背中の記憶』を読み直したり、年末は中島らものエッセイをひたすら漁って過ごしました。

すべてのみなさまが素敵な1年を過ごせますよう。笹塚より愛をこめて。